第162章

北村健は振り返ることなく立ち去った。

医者は長い溜息をついた。彼は椅子に崩れるように座り、昏睡状態の山田澪を憐れむように見つめた。

北村健は会場に着くと、女子トイレを探し出し、夏目彩に電話をかけた。

しばらくして、夏目彩がふらふらと出てきた。

彼女は北村健を見るとその胸に飛び込み、涙で潤んだ目で彼を見上げた。「健、やっと来てくれた。健が来なかったら、今夜はきっと帰れなかったわ」

「これから健に顔向けできないから、死ぬしかないわ」

「馬鹿なことを言うな」北村健は身をかがめて彼女を抱き上げた。「送っていくよ」

夏目彩は彼の首に腕を回し、甘えるように尋ねた。「私が死んだら、怖くない?...

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